みんな大好き背景ボケ!今回はかなりマニアックなお話になります。
よく「APS-C機よりフルサイズのほうがぼけやすい」って聞きますよね。また、「一眼レフの方がスマホやコンデジよりボケやすい」とも。
私も聞かれたら、そう答えています。でもこれって厳密には正解じゃないです。今回はそれをガッツリ計算で求めていこうというお話です。
先に謝っておきます。ただただ計算式が続くので非常に退屈です。ごめんなさい。
ボケって何だ?被写界深度のお話
まず大前提になるお話なんですが、ボケって何でしょう?それには被写界深度という言葉が深くかかわってきます。
写真を撮るとき、AF(オートフォーカス)かMF(マニュアルフォーカス)かの違いはあれど、必ずどこかにピントを合わせます。このピントというのはある程度の範囲で合って見えますが、実際に合っているのはある1点のみです。この1点以外は厳密にはボケています。
この、なんとなくピントが合って見える範囲を「被写界深度」といいます。
ボケというのはピントが合っていない部分のことです。つまり被写界深度が短くなる(被写界深度が浅い)ほどボケやすく、被写界深度が長くなる(被写界深度が深い)ほどボケにくくなります。
またボケの大きさは被写界深度から大きくはずれるほど大きくなります。つまり、ぎりぎりピントが合ってるか合ってないかわからないところよりも、被写体から大きく離れたものは大きくボケるということです。
被写界深度は計算で求めることができる
ここからが本題です。被写界深度は数式で計算することが可能です。
被写界深度の計算式
被写界深度(T)
=前方被写界深度+後方被写界深度
前方被写界深度(Tf)
=許容錯乱円径×絞り値×被写体距離²/(焦点距離²+許容錯乱円径×絞り値×被写体距離)
後方被写界深度(Tr)
=許容錯乱円径×絞り値×被写体距離²/(焦点距離²-許容錯乱円径×絞り値×被写体距離)
焦点距離
=撮像素子の対角線長さ/(2×tan(画角/2))
許容錯乱円径
=撮像素子の対角線長さ/許容錯乱円径用の定数
計算式に使われている語句の説明
一見難しく見えますが、よく見ると以下の項目のみが被写界深度に影響を及ぼしていることがわかります。
被写界深度
被写界深度は前方被写界深度と後方被写界深度を足したものになります。被写体の前と後ろではピントが合う距離が異なり、後ろの方が長くピントが合うんです。
許容錯乱円径
かなりややこしい数字です。ここでは簡略化のため、定数を1300として考えます。各撮像素子サイズを入れた値は以下のようになります。
フルサイズ:√((36)²+(24)²)/1300=0.03328
APS-C:√((23.6)²+(15.8)²)/1300=0.02185
APS-C(キヤノン):√((22.3)²+(14.9)²)/1300=0.02063
1.5型:√((18.7)²+(14)²)/1300=0.01797
フォーサーズ(4/3型):√((17.3)²+(13)²)/1300=0.01665
1型:√((13.2)²+(8.8)²)/1300=0.01220
1/2.3型:√((6.2)²+(4.6)²)/1300=0.00594
1/3型:√((4.8)²+(3.6)²)/1300=0.00462
絞り値
撮影時の絞り値です。F5.6、F8、F11などと表記されるアレです。
被写体距離
カメラから被写体までの距離です。
焦点距離
18mmで広角、50mmが標準、100mmで望遠なんていわれるアレです。数式だと難しく感じますが、レンズに記載された実焦点距離のことです。35mm換算値ではありません。
基準となる値を入れて計算してみる
難しい式が出たときは実際に数字を入れてみるとわかりやすくなります。今回は以下の条件を基準値とします。
Canon EOS Kiss X7(APS-C)、F4、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.02063 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² + 0.02063mm × 4 × 1000mm)
=31.95mm
後方被写界深度(Tr)
=0.02063 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² - 0.02063mm × 4 × 1000mm)
=34.14mm
被写界深度(T)
=31.95mm + 34.14mm
=66.09mm
APS-C機で条件を変えて撮影するとどうなるのか
実際に各条件を変えて計算してみます。
絞りを変えた場合の被写界深度の変化
Canon EOS Kiss X7(APS-C)、F11、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.02063 mm × 11 × (1000mm)² / ((50mm)² + 0.02063mm × 11 × 1000mm)
=83.22mm
後方被写界深度(Tr)
=0.02063 mm × 11 × (1000mm)² / ((50mm)² - 0.02063mm × 11 × 1000mm)
=99.84mm
被写界深度(T)
=83.22mm + 99.84mm
=183.06mm
F値を大きくすることで被写界深度は深くなることがわかります。
焦点距離を変えた場合の被写界深度の変化
Canon EOS Kiss X7(APS-C)、F4、焦点距離24mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.02063 mm × 4 × (1000mm)² / ((24mm)² + 0.02063mm × 4 × 1000mm)
=125.31mm
後方被写界深度(Tr)
=0.02063 mm × 4 × (1000mm)² / ((24mm)² - 0.02063mm × 4 × 1000mm)
=167.23mm
被写界深度(T)
=125.31mm + 167.23mm
=292.54mm
焦点距離を短くすることで被写界深度は深くなることがわかります。
被写体距離を変えた場合の被写界深度の変化
Canon EOS Kiss X7(APS-C)、F4、焦点距離50mm、被写体距離2mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.02063 mm × 4 × (2000mm)² / ((50mm)² + 0.02063mm × 4 × 2000mm)
=123.86mm
後方被写界深度(Tr)
=0.02063 mm × 4 × (2000mm)² / ((50mm)² - 0.02063mm × 4 × 2000mm)
=141.37mm
被写界深度(T)
=123.86mm + 141.37mm
=265.23mm
被写体距離を長くすることで被写界深度は深くなることがわかります。
同じレンズで撮像素子が変わった場合
ここまではAPS-C機で計算してみました。ここからは撮像素子の大きさが異なる場合にどうなるかを求めていきます。まずは同じレンズを使った(焦点距離が変わらない)場合です。
フルサイズ機を使用した場合
Canon EOS 5D Mark III(フルサイズ)、F4、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.03328 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² + 0.03328mm × 4 × 1000mm)
=50.56mm
後方被写界深度(Tr)
=0.03328 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² - 0.03328mm × 4 × 1000mm)
=56.25mm
被写界深度(T)
=50.56mm + 56.25mm
=106.81mm
フルサイズ機にすると被写界深度は深くなりました。あれれ?フルサイズってボケやすいんじゃないの?
一般的なコンデジ(1/2.3型)を使用した場合
PowerShot SX710 HS(1/2.3型)、F4、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.00593 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² + 0.00593mm × 4 × 1000mm)
=9.41mm
後方被写界深度(Tr)
=0.00593 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² - 0.00593mm × 4 × 1000mm)
=9.59mm
被写界深度(T)
=9.41mm + 9.59mm
=19.00mm
コンデジにすると被写界深度は浅くなりました。一眼レフよりボケますやん!
スマホ(1/3型)を使用した場合
iPhone5S(1/3型)、F4、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.00462 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² + 0.00462mm × 4 × 1000mm)
=7.33mm
後方被写界深度(Tr)
=0.00462 mm × 4 × (1000mm)² / ((50mm)² - 0.00462mm × 4 × 1000mm)
=7.44mm
被写界深度(T)
=9.41mm + 9.59mm
=14.77mm
iPhone5Sにしたら被写界深度はさらに浅くなりました。めっちゃボケますやん!ここまで来るとピント合わすの大変そう…。
同じ画角で撮像素子を変えた場合
今度は画角を揃えてみます。
フルサイズ機を使用した場合
Canon EOS 5D Mark III(フルサイズ)、F4、焦点距離81mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.03328 mm × 4 × (1000mm)² / ((81mm)² + 0.03328mm × 4 × 1000mm)
=19.89mm
後方被写界深度(Tr)
=0.03328 mm × 4 × (1000mm)² / ((81mm)² - 0.03328mm × 4 × 1000mm)
=20.71mm
被写界深度(T)
=19.89mm + 20.71mm
=40.60mm
被写界深度は浅くなりました。
一般的なコンデジ(1/2.3型)を使用した場合
PowerShot SX710 HS(1/2.3型)、F4、焦点距離14mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.00593 mm × 4 × (1000mm)² / ((14mm)² + 0.00593mm × 4 × 1000mm)
=108.09mm
後方被写界深度(Tr)
=0.00593 mm × 4 × (1000mm)² / ((14mm)² - 0.00593mm × 4 × 1000mm)
=137.91mm
被写界深度(T)
=108.09mm + 137.91mm
=246.00mm
被写界深度は深くなりました。
スマホ(1/3型)を使用した場合
iPhone5S(1/3型)、F4、焦点距離50mm、被写体距離1mの場合
前方被写界深度(Tf)
=0.00462 mm × 4 × (1000mm)² / ((11mm)² + 0.00462mm × 4 × 1000mm)
=132.38mm
後方被写界深度(Tr)
=0.00462 mm × 4 × (1000mm)² / ((11mm)² - 0.00462mm × 4 × 1000mm)
=180.05mm
被写界深度(T)
=9.41mm + 9.59mm
=312.43mm
被写界深度は深くなりました。
今回のまとめ
計算式ばかりで読みにくいですよね。すみません。ただこれで、ボケを作るポイントは計算で導かれるってことがわかっていただけたかと思います。
- F値を小さくすると被写界深度は浅くなる(ボケやすい)
- 焦点距離を長くすると被写界深度は浅くなる(ボケやすい)
- 被写体距離を短くすると被写界深度は浅くなる(ボケやすい)
実はコンデジやスマホの計算はあまり意味がありません。そもそも一眼レフと同じレンズなんて付けられないですしね。
また、撮像素子の大きさが違った場合に同じ写真を撮ろうと思うと、焦点距離も被写体距離も変わってしまいます。そんな条件でボケがどうこう言うのはただただナンセンスなんです。
それでも結論を付けるならば、同じ写真(画角・被写体距離が同一)を撮ろうとした場合は「センサーサイズが大きいほうがボケやすいのは本当」ということ。
でもここまで知らなくてもなんとなく感覚でわかるし、別に本当でも嘘でもどうでもよくね?っていうのが今回のまとめです。長々と読んでいただき本当にありがとうございました。
それではステキなカメラライフを!あめたま(@ametama_l2l)でした。